太田 慧香

Ota Suikou

常に道具を綺麗に整え、美しい所作で取り組む
描く姿にも美学がある

  • 生い立ちやアーティストとしての活動歴などを教えてください。
  • 虚心洞 太田秋亭 四代目として 1962 年に生まれ、初代秋亭以来 沈南蘋、守山湘颿等、文人墨客より代々画風を受け継ぎ、二代目秋亭、三代目湘香に師事しました。 1980 年からスイス、アメリカへと留学し、海外見聞を広めると同時に日本文化の大切さと素晴らしさに深く感銘し、帰国。その後外国人を中心に墨絵、日本画の伝承に努めます。1982年 画号 太田 慧香を継承。 玉川島屋S・C、アメリカンクラブ、ハンガリー大使館、アイスランド大使館などで指導活動、また自身の制作活動にいそしんでいます。 古典的技法を基礎に、現代風な新しい色彩感覚を織り交ぜ、繊細な作品や、大胆な構成力によって迫力のある作品も作り出しています。
  • 新しい作品を生み出す時は、どの様なきっかけで制作を始める事が多いですか?
  • 自然の景色や草花を見て、美しさや力強さ、優しさなど感動を覚えた時、その姿を残したい、人に伝えたいと思うことが、きっかけとなる事が多いです。
  • 作品を制作する前に準備する事や、何か決まったルーティーンなどはありますか?
  • 絵の具を丁寧に溶き、墨を擦る、この時に心を沈め、邪念を払います。描く題材に思いを寄せ、思い描き、何を伝えたいのか、何に焦点を当てて描くかなど、イメージを整理します。
  • 作品を制作する場所はどの様なところですか?
  • 景色や草花などは、その場で写生し、持ち帰って制作していきます。制作する場所は、南向きの大きな窓に向かって大きい机がある部屋で、出来るだけ自然光を取り入れられる状態で描いています。
  • 作品を制作する際に、どの様なところに気をつけていますか?またもっとも気を配ったり、苦労する点があれば教えてください。
  • 描いているうちに、細部に集中しすぎないよう、まめに距離を置いて確認したり、何日かただ眺めて、色の具合や手を入れるべきところを見つけ出します。自己満足や独りよがりの解釈にならぬよう、第三者に見て貰い、どのように受け止められるかなど、意見も聞き入れます。
  • 新しい作品を制作しよう、と思う時はどの様な時でしょうか?
  • 自然に感銘した時、それらを敬意を持って描きたいと思います。また、展覧会などで、偉大な画家の素晴らしい技術やセンスを見て良い刺激をもらった時、新しいアイデアが浮かぶときもあります。
  • あなたにとって作品/アートとは何ですか?
  • 自分が抱いている自然への敬意を表現し伝える手段だと思っています。制作に携わることにより、自然の偉大さを感じ、多くのことを教えられ、また自身を見つめる機会を与えられる、そういった自然の世界と自分を繋ぐ大切なものです。また観る方々がそれぞれの解釈の中で、癒しや和みを届けることのできるもの、そんな作品となるよう心がけています。
  • 伝統的な日本画の技法で、残したいものは何ですか?また変化させていきたいと思っている部分はどのあたりですか?
  • 伝統的な技法(筆遣いで形や、色のグラデーションなどを表現できる技術)は勿論ですが、道具を大切に扱い、常に綺麗に整えておくことという、例えば茶道と同じような精神を、伝え残したいです。「道具は心を表す」というように、描き始める前に絵の具を整え、その日描き終わったら、必ずその都度綺麗に洗い片付けます。道具への感謝でもあり、長く良い状態を保つ事ができ、また自身の心も穏やかに整います。古くから日本の伝統に根付く大切な部分だと思います。 変化を求める部分は、絵を飾るシチュエーションや目的は時代によって変化していますので、その中でどうやって伝統が生き続けられるのか、順応して必要な変化をしていかなければならないと思っています。
  • 西洋画にはない、日本画ならではの魅力を教えてください。
  • 常に道具を綺麗に整え、美しい所作で取り組む、描く姿にも美学があるところです。 また、構図に関しては、間(空間)の存在が大切です。描き込み過ぎず、説明しきってしまうのではなく、有意義な余白に風や大気、光を感じさせ、そして観る人に想像の余地を残しておく、これが大きな違いだと思います。
  • これから日本画を始めようという人に一言お願いします。
  • 絵というと、ハードルが高いと感じる方が多いのですが、日本画は、日常にとても寄り添ったものだと思っています。日々の生活の中で、絵を描くことにより、今まで気づかなかった小さな花に目を留め、季節の移ろいをより深く味わうことか出来るきっかけを作ってくれます。静かに集中する時間は、日常の喧騒を離れ、心を豊かにリセットできるものとなります。 素敵な気づきは喜びとなり、新しく楽しい扉が開かれることでしょう。