山田 雅夫

Yamada Masao

「都市」の尺度から、写し取ったものが私の作品

  • 生い立ちやアーティストとしての活動歴などを教えてください。
  • 幼少期の頃のエピソードになりますが、私の家の向かいの中学校の校長先生が、3歳になる前の私に世界地図を見せたところ、その場で一気に世界地図を書き上げたらしいのです。海岸線の出入りの激しい、ヨーロッパの地図ですら、そっくりすばやく描くのをみて、校長先生が驚愕しておりました。 その後は、美術系の教育を受けてはいないのですが、工学部出身のためか、理工学的な思考が作品制作への取組みにも影響していると感じています。外国語に翻訳された著書も37冊あり、海外にも私の速描メソッドのファンが増えています。速描スケッチにつながる現在の絵画技法と表現を意識したのは、18才頃に大学の図書室で洋書の遠近法や図法幾何学などに出会ってからで、その時の驚きと発見が現在の創作活動につながっています。
  • 新しい作品を生み出す時は、どの様なきっかけで制作を始めることが多いですか?
  • 旅行で出会った、感動する都市景観あるいは歴史的な遺跡が最も多いですね。特に地中海文明に長年、関心をもっています。 イタリアやフランスの小都市を訪れたときに、思わず「これだ!」と、叫びたくなる風景に出会ったときが、きっかけといえます。
  • 作品を制作する前に準備する事や、何か決まったルーティーンなどはありますか?
  • 特段の準備作業はしません。普段からさまざまな画材を使うので、マメなメンテナンスを心掛けています。
  • 作品を制作する場所はどの様なところですか?
  • ある程度以上の大きさの作品では、室内で制作しますが、小作品については屋内外を問わず描きます。屋外では厳しい条件下で描くこともあり、出来上がった作品からは想像できないような環境で制作する場合もあります。
  • 作品を制作する際に、どの様なところに気をつけていますか?また最も気を配ったり、苦労する点があれば教えてください。
  • 野外での作品の制作では、思いのほかいろいろなことがおきます。作品そのものの制作に集中するだけでなく、街の様子などに気を配ることも大切です。 大型トラックが、描きたい都市景観と描いている私のちょうど中間に停まったりする場合などは、トラック運転手に事情をお話し、移動をお願いすることもあります。
  • 作品が完成した、と思える瞬間はどの様な時ですか?
  • まだ何も紙の上に描いていない段階で、構図や意図する対象の描写が克明かつ詳細に浮かぶ状態になったときが非常に重要です。そこには、出来上がったときの姿が実際に描ききった絵かと見間違うように、リアルに見えています。その意味では、作品の全体像が細部にわたって鮮明になった時が、気持ちの上では一つの作品の出来上がり、とも解釈できます。
  • あなたにとって作品/アートとは何ですか?
  • 都市は、人間活動の総体を表現するものです。刻々と変化していく現代という時代を、私のこだわり続けている「都市」の尺度から、一人の目撃者として、写し取ったものが私の作品です。逆に人為的な要素があまり入っていない自然豊かな国や地方を旅した時にもスケッチしますが、メインの題材は「都市」あるいはその一部を取り出した街角や広場、場合によっては社会インフラなどです。
  • 作品をつくるにあたり、建築士としての視点はどの様に生かされていますか?
  • 描く対象が建築物や広場、街並みなどでは、意匠面での特徴はもちろんですが、外観の素材や建物の構造などを私は建築士として理解していますから、描くものと省くものなどの取捨選択の判断に大いに役立っています。 また数多くの建築パースを、演習で手作業にて作画する際に、簡便に作画する手法を自分なりに工夫したことが、その後の速描スケッチに影響を与えていることも確かです。
  • 短時間で特徴を捉えるスケッチでは、一番大事なポイントはどの様なところでしょうか?
  • 私のスケッチ手法は、描く前の段階が非常に重要です。対象物の特徴を明確にとらえることができた時に、すでに大半は描けているようなものだからです。描かないと決めた部分は紙の上では余白になりますが、むしろ積極的にその余白を活かして描くようにします。それこそが、短時間でスケッチする際の最も大事な点です。
  • 「山田雅夫の3分間スケッチ」は、どの様な流れで講座が進んでいくのでしょうか?
  • 毎回、講師が用意する教材をもとに、線描と着彩で1枚、仕上げていただきます。速描のメソッドを熟知されると、2枚描かれる人もいます。重要なところを、最初に講師が実演するところがポイントです。線描であれば、構図の設定やどこから描いたらよいかを解説します。塗りですと、題材によって変わりますが、主に使う手法(ボカシやグラデーション、混色など)について実演します。それぞれ仕上げた人にも、手を加えることでもっと魅力的になると講師が判断した場合、直すこともあります。