財前 謙

Zaizen Ken

物差しは自分
自分の感覚を澄んだようにしておく努力をし続けることが大事

  • 生い立ちやアーティストとしての活動歴などを教えてください。
  • 小学生の時から字を書いてばかりいて、それ以外何もできない人間です。高校生のころは試験の答案用紙の文字をいかに書くかばかりに気をとられ、成績は散々でした。 SNSなど自ら外へ向けての発信はほとんど行なっていません。自分の内面の探求がどのような形となって表れるのかは、本人にも分かりません。それを他人が認めるかどうかも、どうでもいいことだと考えています。ただ好きなことを、好きなようにやっているだけです。
  • 新しい作品を生み出す時は、どの様なきっかけで制作を始める事が多いですか?
  • 他分野と違い、「書」は文字を書く——つまり文字であらわされた言葉を書くものです。したがって、書きたい言葉に出会う、あるいは自分の言葉の表現を形にしたいときに作品になります。
  • 作品を制作する前に準備する事や、何か決まったルーティーンなどはありますか?
  • 特にありません。しかし、寝ても覚めても、書道に関わることしかやってないので、特別なしつらえは不要ではないでしょうか?嫌いなものからは、人も食べ物も仕事も逃げ出す習性があります。
  • 作品を制作する場所はどの様なところですか?
  • これも特に決まってはいません。自分の今いる場所だけが、唯一の世界だと考えています。特別なことをするのは借り物になりそうで、怖いです。
  • 作品を制作する際に、どの様なところに気をつけていますか?またもっとも気を配ったり、苦労する点があれば教えてください。
  • おおらかで、健康的であること———専門的な知識や技法などは、最終的には作品創作のなんの役にも立ちません。知らなくては何もできませんが、いったん身につけたものを、いかに忘れるかはもっと大事だと考えています。 自然科学ではありませんから、客観性などどうでもいい。ただ自分だけが物差しです。常日頃、自分の感覚を澄んだようにしておく努力をし続けることが大事。だから、嫌いなものには近づかないことにしています。 そして環境を心地よいものに日頃から調えること。たとえば、普段つかう食器でも割れやすい陶器ばかりで、いくらブランドでも硬いヨーロッパ製の磁器なんかはほしい人にあげています。日常そのものがすべて作品に現れるものだと思います。
  • あなたにとって作品/アートとは何ですか?
  • 自分そのものです。しかも、自分のとるに足りない拘りから解放されたときに、納得のいく作品が書ける気がしています。
  • 「手書き文字」の良さを教えてください。
  • この20年間、手で字を書かなくなった人は、能力が減退していってるように、私には見えます。機器の力を自分の能力と誤認している人がいるように思えます。 道具の力など借りずに、自らの力だけで生きていける——そんな能力は、字さえ手で書かないでどうやって身につくでしょうか。早くそれに気づいた人が、次の時代の勝ち組になるように思います。
  • 大学講師(元高校教師)との事ですが、文字教育について、アーティストとなった今、感じることや学生たちに伝えたいことはありますか?
  • 経験の幅が狭い、そしてネット上の情報に翻弄されていて、そこからはみ出すのを極度に恐れている。そのぶん、純粋さにあふれています。 画一的なフォントばかり見ていないで、人の筆跡はみな違うこと、それが本来なんだということから気づいていってほしいです。
  • コミュニティクラブたまがわでの「書を究める」というレッスンでは、どの様な事が学べますか?
  • 受講生の方々は、それぞれ思い思いの字を書いています。丁寧に、字を書いていく行為の中から自分が見えてきます。コロナは怖くて外出をためらい続けたけど、ここに来ないと自分がダメになると思ったという方もいます。 もちろん、書道に関わる専門的なことは、どのようなことでも対応可能です。初心者でも、経験者の学び直しでも、いろんなタイプの受講生が集っています。受講友達との「お茶」を楽しみにしている方もいるようです。